2年半年ぶりのブログ復活〜「警察官育成」のポイント

ここ2年ほどブログをほとんど更新せず、twitterに集中していました。
しかし、今年度より学部長も無事に退任できたので、今までやってきたことや考えてきたことを徐々にブログに書いていこうかと思います。そこで、このブログを復活させることにしました。

さて、最初の話題はやっぱり、警察官採用試験の話題。2年半前の記事の続きです。警察官という職業を前の記事のように理解し、大学の教育目標と関連づけて議論したわけですが、今回の記事も、その内容の延長線上にあります。

さて、警察官はここ数年不況のせいか、受験倍率がうなぎのぼりにあがっています。高偏差値大学の学生もばんばん受けてくるみたいで、ウチの学生にとっては、なかなか苦しい戦いを迫られているというのが実情です。

そんな中、今年は主に私のゼミの学生が頑張っています。まだ、最終合格は出ていませんが、ウチのゼミの約2割の学生が各都道府県県警の1次試験を突破中です。これは、警察官試験を受けた学生のうちの6割以上という好成績。結果が出ればいいなあと思っています。

さて、この警察官採用試験は、都道府県によってやり方が若干異なるもの、基本的には、
① 教養試験(筆記試験、一般試験と称する場合もある)
② 小論
③ 体力試験・適性テスト
④ 面接
の4つの方法の組み合わせで行われています。

なぜ、この4つの方法で採用が行われるのか、ということに関しては、前の記事を読んでいただければ、お分かりでしょう。

前の記事をふまえて端的に言えば、教養試験は、警察組織の「幅の広い仕事」に対応し「幅広い知識」を獲得し続けるための「学習能力(フレキシビリティ」と「訓練可能性(トレーナビリティ)」を問うているわけです。

現在、警察は、刑事警察的機能から行政警察的機能に重点を移しつつあります。それは、ここ10年で日本社会において防犯の考え方が転換したことと関係があります。もちろん、実際には「検挙から防犯へ」という考え方に切り替えることは容易ではありません。「やっぱり検挙こそ最大の防犯だよ」と不満そうに言う現場の警察官もいるようです。

しかし、他方では、新しい警察の課題に柔軟に対応している警察官もたくさんいます。そうした人たちの視野の広さや知的好奇心の高さはなかなかなものです。そうした警察官の能力をみるにつけ、警察官になって何年経とうが、「今まで役に立たないと思っていた知識」や「今までとはまったく正反対の立場に立つ知識」を柔軟に吸収できるかどうかが、警察官のキャリアにとって、結構大切な能力ではないかと思うようになりました。

そして、こうした能力は、原理的には教養試験で評価可能です。確かに教養試験には、数的判断などの論理的思考を問う問題も多いのですが、それに加えて、文学史などの「おそらく仕事では全く役に立たないと思われる知識」や法律・経済・政治・国際関係・歴史等の「幅の広い(基礎的な)知識」を問う問題も多いのです。こうした幅広い知識に対する学習能力を、大学4年生になっても維持し続けることは、警察官になって以後の成長可能性(組織から見れば訓練可能性)を予測しているといえるのです。

もちろん、現実には、教養試験については公務員予備校でテスト対策をする人がほとんどでしょうから、教養試験を通じて、知的好奇心や視野の広さがわかるというのは楽観的に過ぎます。そういうわけで、最近の採用試験では面接を重視するようになっています。個人的には、予備校で対策しようがない教養試験を開発すればよいと思うのですが、そこまでの大転換は難しいようです。

さて、次は、小論文です。警察官試験では、全国どこでも必ず小論文が課せられます。その理由は、もちろん、警察官にとって、「書類作成能力」はかなり必要度が高い能力だからです。

警察官は調書作成のために客観的かつ論理的な文章力を要求されます。刑事ドラマは犯人を捕まえれば、あとはエピローグですが、実際は、犯人を捕まえたあとで、犯人を有罪にするための証拠固めや調書作成等、膨大な書類作成作業が待っています。新米警察官であれば、今まで対応したことのない新しい案件にぶつかった時に、「自分はこの事案で調書が書けるのか?」と不安になるくらいだそうです。

さらに、他の自治体等との連携や人事交流が増えるなかで、企画書作成の機会も増えています。自治体に出向すれば安全・安心まちづくり条例などの策定に関わることもあります。小論文試験によって、こうした論理的な文章作成能力と課題解決能力を問うているわけです。

その小論試験、実は大きな特徴があります。それは次の記事で書くことにします。

というわけで、今回の記事の内容をまとめると、「警察官採用のプロセスで問われるのは、特定のスキルではなく、汎用スキルだ」ということでした。古い言葉で言えば、「つぶしの効く力」であり、最近の言葉で言えば、「ジェネリック・スキル」です。中教審の学士力答申でも、「汎用的技能」と言われているものです。つまりは、警察官とは、決して特殊な能力を持った人がなる職業ではなく、日本の多くの会社で共通する人材が求められているのです。

だからこそ、警察官になりたいという学生は、「大学の勉強をきちんとすること」がいかに大切か、ということを理解する必要があるのです。