警察官採用試験の小論文は何を問うているのか?

公務員試験には必ず小論文があります。警察官試験も同様です。また、最近では、九州の中規模程度の企業でも小論文や作文が増えているようですから、文章能力をみるのは公務員だけとは限らなくなってきました。

ともあれ、警察官の小論文とはなにか特殊な内容のものなのでしょうか? 東京アカデミーのサイトに、全国都道府県警の過去問が掲載されてあります。

まず、福岡県警の過去問から見てみましょう。
◯平成22年度《第1回》……【時間】60分 【字数】1050字以内 
福岡県警察は、「県民の安全・安心の確保」のため、「力強い警察活動」を推進していますが、それを踏まえた上で、あなたが警察官となった場合、何をなすべきかについて考えを述べなさい。
◯平成22年度《第1回》……【時間】60分 【字数】1050字以内 
福岡県警察は、「県民の安全・安心の確保」のため、「力強い警察活動」を推進していますが、それを踏まえた上で、あなたが警察官となった場合、何をなすべきかについて考えを述べなさい。
 
福岡県警の課題は、毎年このような傾向であることがわかります。今年度も同様でした。このように、警察業務と関係がある問題を設定され、それに対して「あなたは警察官としてなにをなすべきと考えるか」ということを書くタイプの課題のことを、「対課題型」課題と呼んでみましょう。

この「対課題型」課題は、全国の半数近くの県警で出題されています。たとえば、「昨年1年間に自動車運転免許証を自主的に返納した人は全国で5万人を超え、前年比75.3%増と大幅に増えました。また、このうち75歳以上の人は約2万8,000人と過去最多になりました。そこで、このことについて、その背景と今後望むべき方向について、あなたの考えを700字以上900字以内で論じなさい」(埼玉県警)とか、「鹿児島県の治安上の問題を挙げ,それに対して警察官としてどのように取り組みたいか、あなたの考えを論述しなさい」(鹿児島県警)などがその代表例です。

さて、この福岡県警の「課題解決型」課題を分析すると、次の4点が問われていることがわかります。
①志願者が県の治安情勢や県警の課題等の情報にアクセスできているかどうか、
②それらの情報を理解・分析できているかどうか、
③そうした情報を踏まえた上で、当事者意識を持った課題解決策を提案できるかどうか、
④それらを1000字程度の文章で論理的に表現できるかどうか、

この小論文で問われているのは、警察官特有の知識やスキルだけではありません。この課題に対してたった一つの正解があるわけではありません。そうではなく、この課題は文章表現のプロセスである「情報収集力」「情報分析力」「課題発見力」「構想力」「表現力」がすべてを問うているのです。県警の課題などは、県警本部長の年頭の挨拶などを見つけ出せれば、おおよそ予想はつきます。それは試験対策でなんとでもなる話です。それよりも、この小論で問われているのは、特定の職業を超えて必要とされる汎用的技能(ジェネリック・スキル)であり、「日本語リテラシー」そのものです。それは大学4年間で育成していく力であり、その力こそが、大学卒業後、職業人として、また広い意味での社会人として、生きていくために必要な力の一つなのです。

ここで別の県警の問題をみてみましょう。警視庁をみると、「過去に達成感を得た経験と、その経験を警視庁警察官としてどのように活かしたいか述べなさい」といった、上の課題とはちょっと傾向の異なる課題を要求する県警もあります。「今まで経験してきた中で、これから警察官としてどう生かせるかあなたの考えを論じなさい」(神奈川県警)や、「あなた自身の性格、個性あるいは能力等を分析した上で、あなたが目指す理想の警察官像を述べなさい。」(佐賀県警)なども同様です。

これらは、「自分はどういう人間なのか?」「自分はどういう経験をしてきたのか?」という意味で、「対自己型」課題と呼ぶことにしましょう。こうした内容を出す県警は他にも多く、先ほどの「対課題型」課題と同じくらいの出題頻度です。そして、これまた正解があるような課題ではありません。むしろ、これらの内容は民間企業の面接などでも問われるような内容です。つまり、その人の「コンピテンシー(行動特性)」を問う課題です。その人の経験やそこから学んだことを通して、その人の行動特性を判断し、その行動特性が警察組織と適合するかを評価しているのです。こうした課題に対しては、自分の経験に対する十分な「振り返り」が普段からできているかが問われます。それも、警察官になるための対策というよりは、やはり、大学卒業後、職業人として、また広い意味での社会人として、生きていくために必要な力の一つだといえるのです。

「対課題型」課題と「対自己型」課題。この2つのキーワードで県警の小論文を分類してみました。どちらの課題も、特定の知識やスキルのみを問うているわけではありません。前者は社会人としてふさわしい日本語リテラシーの有無を、後者は、社会人としてふさわしい行動特性の有無を問うているといえるでしょう。どちらも、観点は違いますが、「社会人」としてふさわしいか、「組織人」として仕事がちゃんとできるのか、そうしたスキルを大学の間にきちんと蓄積してきたのか、という点を問うているわけです。

警察官になるための最大の近道は、4年間かけて、付け焼刃の小論対策がたち打ち出来ないような本当の実力を持った「日本語リテラシー」を身に付けることです。ウチの学部では、「文章表現科目(教養特殊講義)」を通して、1年次からそうした力を育成しています。それは何も、「警察官」だけを特別に育成したいからだというわけではありません。警察官小論試験でよい文章が書けるようになることは、大学卒業後、職業人として、また広い意味での社会人として、生きていくために必要な力を持っているともいえるからだ、と考えているからなのです。