C君はいかにしてC大学の学生となり、退学問題を乗り越えたか①

今回からBLOGOSにも転載されるようになったので、改めて自己紹介をします。
はじめまして、山本啓一と申します。北九州のとある大学に勤める大学教員です。2008年から2012年まで学部長をつとめ、その後も教育改革に携わり続けています。

日本の大学は、ここ最近、10年間ごとに進学率が10%上昇し、現在の大学進学率は50%を超えています。学生の状況も刻々と変化しています。しかし、こうした変化について、大学関係者も含めて多くの人はあまり実感できていません。そのせいか、大学の現状が大きく変化したにも関わらず、社会全般で議論される「あるべき大学像」は、進学率20%台の時代を前提としてることが多い気がします。

そこで、このブログでは、現在のマージナル大学(いわゆる下位校)やユニバーサル化した大学(同世代の半分以上が大学に進学する状態)の課題や改革の方向性について扱っていきたいと思います。リアルで等身大の大学像や学生像を伝えることができれば幸いです。


さて、今回から、地方都市の普通科高校の3年生であるC君に登場してもらいます。C君を通じて、「勉強が苦手で将来の目標が漠然としたまま大学に進学してくる学生」という、現在かなりの割合を占める学生について、少しでもリアルなイメージを持ってもらえたらと思います。

C君の高校の成績は中の下といったところですが、進学を考えています。進路指導の先生も「今は高卒でいい就職先なんて本当に限られている。お前ら普通科の生徒は進学以外に道はないんだ」と言うし、周りの友人も専門学校か大学かのどちらかを選んでいます。C君自身は将来なりたい職業が特になかったこととから、大学進学を選ぶことにしました。

C君の父親は自営業です。「お前の進路はお前に任せるが、できれば大学に行った方がいいんじゃないか。オレは大学にいなかったからよくわからないが、いまや大学に行かない人間の方が少ないそうだ」と言っています。母親は「大学でも専門学校でもいいけれど、資格をとって公務員になってちょうだい」と普段から言っています。

高校の先生は、大学進学するならセンター試験まで勉強したほうがいいとしきりに言っていましたが、C君は推薦入試の方がいいなと思っています。親の経済的な状況を考えると、地元の大学以外の選択肢はありません。だったら、わざわざ全国区の大学を受けるための勉強をする必要性を感じなかったのです。

高校の進路指導の先生からは、「C大学だったらそんなに難しくないが、法学部は最近評判がいいぞ。警察官のためのコースがあって合格者も結構出てるらしい。お前の評定値だと大丈夫だ」と言われました。

C君は、勉強は嫌いな方だったので、いままで資格とか公務員試験とか考えたことがありません。でも、進路指導の先生からC大学を勧められた時には、公務員の中だったら警察官がいいなあと思うようになりました。制服姿のキビキビした態度にもなんとなく憧れます。

そこで、8月に母親と一緒にC大学のオープンキャンパスに行ってきました。高校の先生からもオープンキャンパスに行って感想文を出すように言われています。オープンキャンパスで模擬授業を見たり、大学の先生と進路相談をしたりしました。大学生も手伝いで参加しているようです。母親は学費とか公務員合格率とか、いろんなことを聞いていました。大学の先生は、「公務員試験対策をしただけでは公務員試験に受かりません。大学生なりの勉強を本気でやり、大学生なりの充実した学生生活を送ることで合格に近づいていくのです」と言っていました。

C君は先生の話の内容にはあんまり興味がありません。ただ一つだけ、先生たちと学生がすごく仲良さそうに見えたのが印象的でした。なんだか学生が対等に話をしています。もちろん、学生はタメ口ではなくちゃんと敬語で話をしているのですが、先生たちは学生に対して、高校の先生みたいに「おいお前ら、〜しろよ」じゃなくて、「〜してくれる?」といった口調で話をしているのです。

大学ってちょっと大人なところがいいなと思いました。戻って高校の先生にその話をすると、「オープンキャンパスの時は大学の中でも特にいい先生といい学生だけが出てきて宣伝をするのが普通だ。オープンキャンパスの雰囲気を信じこんだらよくないぞ」と言われました。でも、直感でC大学に行こうと思ったのです。

11月になると推薦入試の季節です。C君も面接の準備などを高校の先生に指導してもらう日々が続きました。大学のパンフレットに書いてあることを抜き出し、その言葉をもとに志望動機をつくり、それを暗記するのです。「はい! わたしが御校を志望いたします動機は、まず第一に法学部には◯◯コースという、警察官を育成するコースがあると伺ったからです」、といった具合です。

推薦入試当日になりました。C君は結構緊張しています。順番を待ったあと、面接会場に入ると2人の先生が座っています。練習どおりに、大声で「失礼します! ◯◯高校から参りました◯◯です。受験番号は◯◯です」といい、面接が始まりました。

最初は型どおりの面接内容でしたが、そのうち面接の先生が予想外のことを聞いてきました。「高校で団体行動はしたことがある?」という質問です。C君はなんとか「剣道部に入っているので練習は毎日しています。合宿も夏休みごとに行きました」と答えられました。面接の先生は満足そうでした。面接自体は10分ほどであっという間に終わりました。

1週間後、合格通知が高校の進路指導の先生あてに来ました。両親はとても喜んでいました。こうしてC君はC大学への進学が決定です。こんなにもあっさりと決まるんだったら、他の選択肢もあったかもしれないとふと思いましたが、もう決まってしまったことです。

さて、11月末から2月までは高校に毎日通わなければいけませんが、大学入学が決まっているわけですから、それまで以上に勉強に熱が入るわけではありません。大学からも業者が作った問題集が送られてきました。入学するまでに問題を問いて送らないといけないようですがこちらも適当に解きました。

こうしてあっという間に高校の卒業式です。卒業式は3月1日です。1ヶ月の春休みは、友だちとたっぷり遊んだり、バイトをして過ごしました。もはや遊んでいても誰も注意する人はいません。C君は、「このまま大学もこんな感じだったらいいのに」と思ったりもします。

さていよいよ4月です。C君は晴れてC大学の学生となります。
はたして、C君はちゃんと大学生としてやっていけるのでしょうか? 

続く〜

注:C大学およびC君はフィクションです。