新米教員、新入生研修を乗っ取る(その2)〜こんな新入生研修があるのか!

みなさん、こんにちは。


2003年のことです。一橋大学国際企業戦略研究科(ICS)という、半分が留学生、授業はすべて英語というちょっと変わった大学院が面白い研修をやるから見にこいと誘われ、ちょうど夏休みということもあって、僕は八ヶ岳にまで、のこのこと出かけていったのでした。それが僕とPA(Project Adventure)の運命的な出会いでした。


その時は、何をやるのか、どんな内容なのかまったく知らされないまま出かけていったのでした。で、当日は運悪く、雨。しかも、雨合羽を着てプログラムを強行するというのです。「え〜、なんかウザイなあ」と思いつつ、研修を見ていると、やはりなんだかよくわからない。グループでボールを投げ合ったり、板を使ってみんなで手をつないで渡ってみたり。ファシリテーションがすべて英語で行われていることもあって、外からみていると、最初のうちは、何をやっているのかまったくわからなかったのです。


こ、これは一体なんのためにやってるのだろう? ノリの良い留学生だけに、やけにテンションが高いのは分かるんだけどなんななんだ、と謎に包まれながらしばらく見ていると、次第に、次のようなアクティビティを見ているうちに、「なるほど」と思わされるようになったのです。

これは通称「ジャイアント・シーソー」。ファシリテーターは、「シーソーが地面につかないように全員がこのシーソーに乗ってください。失敗して良い回数は自分たちで決めましょう」と支持を出しています。それを受けて、みんな一生懸命話し合いながら取り組んでいるのです。なるほど! これは問題解決をチームで身体を使ってやるゲームなんだな。

実際、みんなとっても真剣にこの課題に取り組んでいました。誰かがリーダーシップをとり、みんんで成功するための戦略を考え、実際に失敗しながらその戦略を試しつつすこしずつ改良し、最後に成功した要因をみんなで分析(=振り返り)する。これは確かにビジネス・スクールの学生にとって、非常に有益な内容だなと思ったのでした。

これは通称「アイランズ」。2枚の長短のある板を使って、みんなで3つの島を渡っていくというもの。これまたとても難し課題解決の問題なのでした。


なるほど〜、とってもよくできてるねえ、これはスゴイ、と大変感銘を受けたのです。
1日目はそんなところで終わって、次は2日目。さらに目を開かされる思いをしたのでした。


2日目の最初は「ネームストレッチ」。みんなでストレッチをしながら全員の名前を確認していく中で、「誰か全員の名前を言える?」っていうファシリテーターの問いかけに、手を上げる学生たちが続々。実は教員もこのグループの中に入っていたようで、先生方も率先して、新入生50名の名前を全員覚えていることをアピールしていたのでした。スゴイ! 


どうやらこの研修は、新入生だけじゃなく、教員・職員も一緒にやっているとか。なるほど! 留学生だけに年齢構成がバラバラだったので、先生か学生かよくわからなかったのです。それってとっても重要な取組じゃないですか。新入生がお互いに名前を覚えあって仲良くなるだけじゃなく、教員との距離もここで一気に縮まるような研修。僕が学生の頃には考えられないような内容だなあ。こういうゲームを先生と新入生が一緒に取組んでるというだけで、大学院の雰囲気がわかるような気がするじゃないですか。特に留学生を相手にしている場合、こういう取組は不可欠だと思います。

というのは、僕が大学院の時、悲しいことに留学生の自殺が問題になっていました。大学で孤立してしまって、大学院をドロップアウトしたり自殺したりということが結構頻繁に起きていたのです。当時の大学はそういうことに鈍感でした。だから、こういう研修を留学生が多い大学院がやるということは、非常に意味があるわけです。

実際に、この研修に参加しているグループそれぞれの雰囲気はどんどんよくなり、次々といろんな「アクティビティ」にチャレンジしていきます。



これなんかは、後ろ向きに倒れるのをみんなが支えるという、通称「トラスト・フォール」。成功した時のチャレンジャーのものすごくいい笑顔を見ると、チームを信頼し、チームに身体を預けるという体験をみんなで一生懸命にやるのはとっても意味があるんだなと思いました。


そのうち「ハイエレメント」と呼ばれる、高い位置でのアクティビティが始まりました。

こ、これはスゴイ。10mの壁を登ったり、10mの高さの丸太を端から端まで渡ったり、ワイヤーを渡ったり、高いところからジャンプしたり。



ちょっと一言では言い表せられないくらいのアクティビティが次々と始まります。そして、はたから見ていても、「チームがまとまっていると個人のチャレンジは限界を越えたところで可能になる」ということが目に見えてわかるのでした。スゴイなあと思ってると、教員たちもぞくぞくチャレンジしていくではありませんか。

ある年配の先生は、10mの高さの丸太を渡ることを「これはねえ、単純にメンタルの問題なんですよ。30cmしか浮いてないと思えば全然怖くないでしょ。そういう意味で非常に面白いアクティビティですね」と言いつつ、なんなくこなしていたり。

圧巻はあの著名な経営学者の竹内弘高センセイ。誰よりもハイテンションで、鼻歌を大声で(笑)歌いながら、あという間にワイヤーをわたってみせたのでした。超優秀な経営学者はメンタル面とフィジカル面すべて卓越してないといけないと思っていらっしゃるようでした。それはとにかく、先生たちのコミットぶりがむちゃくちゃ印象的でした。その他にも、石倉洋子先生とかいろんな著名な先生たちが新入生を受け入れるための研修に一生懸命、そして楽しそうに参加している姿は、今でもつよく印象に残っています。

外部の僕だって、この時に参加した先生たち全員のことを覚えているし、今でもその先生たちの本が出たら、つい手にとってしまいます。それに当時の新入生たちの顔もなんとなく覚えてます。というのは、僕も、最後にはこのアクティビティに参加して10mの高さから空中ブランコめがけて飛んだから。ああいうことを他のメンバーにサポートしてもらう安心感というか嬉しさというのは、長く忘れない記憶になるのだなあと実感できます。

その後も、一橋ICS2003の研修は夜も楽しくバーベキューへとなだれ込み、テンションがさらに高まっていったのでした。いや、すごいなあと本当に感動したのです。

さらに2日目は、グループでロープを使って川を渡るという冒険。これまた面白い内容でしたが詳細は省略。


ともかく、この研修を見て、本当に感銘を受けたのでした。聞くうちに、この研修はアメリカでProject Adventureという団体が生み出したものであること、日本でも小学校から企業研修までいろんなところで使われていることなどを知ったのでした。リコーなどは自前の施設を持っているし、全国にも青少年自然の家などでこういう施設があることもわかりました。

そして、こんな面白い研修を知って、そのままにしておくなんてできないでしょう。一橋ICSでやってるなら、ウチこそこの研修を導入すべきでしょう。退学問題、やる気の問題等々多くの問題を抱えているウチの大学でこれをやれば、雰囲気は少しぐらい変わるんじゃない。でも、こういう施設に行ったり、プロのファシリテーターを雇う余裕は全くないから、じゃあ、ウチでは、施設を使わなくてもできるものを中心に、上級生にこのノウハウを学んでもらおう。それは一つの教育プログラムになるじゃないか。

この時、瞬時に、2004年から現在まで続く固く、九国大法学部フレッシャーズ・ミーティングの構想ができたのでした。当時はまだペーペーの新米教員で、新入生研修の担当者でもなんでもなかったし、当時は大学に対するコミットメントの程度をむしろ疑われていたくらいの人間だったのですが、それでもこうしたことを「思いついてしまった」からには、実現の方法を探らないとダメだろうと思ったのでした。


2003年9月のことでした。その3ヶ月後に本当に研修を乗っ取って、PAを導入してしまうとは、さすがにその時にはわからなかったですけどね。